みなさんこんにちは。
なかなか記事が書けておらず、久しぶりの更新です。
今日は山本健人先生(外科医けいゆう先生)の新著「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」のレビューとリハ医視点での「すばらしい人体」について一つご紹介します。
●レビュー
本書の内容は、多くの内容を私は医学部で習っています。
それでも、読み進めるに連れて忘れていたことを思い出し「そうだそうだ!」と何度もひとりごちていました。
特に肛門の「実弾と空砲」の話はハッとする事実です・・(気になる方はぜひ本書をお読みください)。
そんな私から、「人体はよくできている」と思う人間に備わっている一つのしくみをご紹介します。
●リハ医的!すばらしい人体
テノデーシス、という言葉をご存知だろうか?
手のリハビリに関わる職種しか認知されていないかもしれないこの言葉、実は私たちが無意識に使っている体のしくみなのです。
まず、手全体の力を抜いてだらんと下げてください。
指は伸びているか、わずかに曲がっている程度でしょう。
そこから、手首だけをそらす(手の甲側に曲げる)ことをしてみてください。
手首をそらした時、指はどうなっていますか?
そう、先程のだらんとしていた時よりも自然に指が曲がりましたね?そして、親指と人差し指が自然にくっつきますね?
この「手関節(手首)を背屈(そらす)と指が曲がり、逆に手関節を掌屈すると指が伸びる」しくみを、「テノデーシス(あるいはテノデーシスアクション)」と呼びます。
日本語だと「固定筋腱作用」とも呼ばれます。
私の手で実演してみると、こんな感じです。
一見何が大切かわからないかもしれませんが、なぜこのしくみは大切なのでしょうか?
私たちが普段何気なく使っているパソコン。
タイピングをするとき、手首はそらしていますか?それとも曲がっていますか?
そう、そらし気味になっていますよね。
もう一つ例を挙げると、ダーツをする時、矢を持って構えた手の手首はどうでしょうか?そらしていますよね?
「手首はそらした方が指先を使いやすい」ということを私たちは無意識に学び、実践しているのです。
仮にパソコンのキーボードの手前に大きな本が積み重なっていたら、手首が曲がってしまいタイピングしづらくて仕方ありませんよね?
そして、ある障害がある方達にとって、このテノデーシスは極めて重要です。
事故などで頸髄損傷という状態になる方がいます。
頸髄は首の骨の後ろにある太い神経で、首から下の運動や感覚などを司るとても大切な神経です。
この神経にダメージを受けると、手足に麻痺をきたして歩くことや手を使うことが難しくなる場合があります。
頸髄からは主に上肢(腕+手)の神経が出ており、頸髄の中でダメージを受ける高さによって、どのように上肢を動かせるかが決まります。
頸髄の6番目や7番目まで機能が残っている(完全麻痺の)場合、手首をそらすことはできますが、指を動かすことはできません。
こうした方達がものをつかんだり指を使えるために必要なのが、テノデーシスなのです。
頸髄損傷の患者さんが実際にテノデーシスを使ってペットボトルを持ち上げたりフォークを持っている動画がこちらです。
(2:30頃から実演が始まります)
ペットボトルやフォークだけでなく、歯ブラシを持って歯を磨く、服をつかんで脱いだり着たりする、スマホを指先で操作する、電気のスイッチをつける・・・など、私たちは日々無数の「指先を使った動作」をしています。
これらの動作を指先を動かせない頸髄損傷の方が行うために、テノデーシスはとても大切なのです。
なお、実際にはテノデーシスだけではなく道具の工夫も大切で、例えば歯ブラシを太い柄にするなどです。
当然ながら、頸髄損傷のリハビリではこうしたテノデーシスの活用や道具の工夫などを患者さん自身がみっちり学び身につけることになります。
以上、けいゆう先生のご著書をヒントにリハ医的!すばらしい人体について解説いたしました。
参考になりましたら幸いです。