今回はリハビリテーション医学とその他多くの医学の違い、成り立ちについてお伝えしたいと思います。
本来、医学は解剖学(筋肉や内臓がどこにあるか)や生理学(細胞やその集まりである組織がどのように働いているか)を基礎として始まった学問です。「基礎医学」と言われます。
そして特定の部分(細胞、組織、臓器)に異常をきたした時、その原因を突き止めて治す、というものが「臨床医学」です。
例えば、肺炎の場合、医師は呼吸の状態を診察し、レントゲンなどで肺という臓器に異常があることを見つけ、痰の検査を行い肺炎の原因がある細菌であることを突き止めます。
その細菌に対して有効な抗菌薬を投与して細菌を減らしたり殺すことで、肺炎を治そうとします。
特定の臓器について詳しく勉強や研究を行った専門家がそれぞれ「◯◯科」を名乗り患者さんを診療しています。
これが医師や医学に対する一般的なイメージだと思います。
一方でリハビリテーション医学は一般的な医学と何が違うのでしょう?
この図は人間の身体とその上にある活動、生活をひとつなぎに表したものです。
一番小さな視点では細胞があり、細胞が集まって組織ができます。
組織の集まりが臓器で、臓器がたくさん集まって1人の人間の全身となります。
実際には、私たちは全身を使って様々な動作をしています。食事、着替え、歩く、風呂に入る、などです。
動作の連続が、生活を営むことです。
リハビリテーション医学は、活動の医学とも言われます。
活動がうまくできない状態に対して、なぜうまくできないのかを突き止めてうまくできるようにする、あるいは補うものを使うといった対応を考え実践します。
例えば、脳梗塞により左半身の麻痺がある方に対して、麻痺した手足が動きやすくなるよう刺激を入れる訓練を行い、歩く訓練では麻痺によって低下した力を補うなどの目的で足に装具をつけたり杖をついたりします。
装具がなければ歩けない方も装具をつけて歩くことができれば、それは活動が良くなった、と言えるでしょう。
もちろん足を痛めないよう十分な練習やケアも必要です。
さて、先程の肺炎の治療と、左麻痺の治療を比較して振り返ります。
肺炎の治療では、まず肺に細菌が入り込んでダメージを与えている状態に対して、抗菌薬を使うことで肺という「臓器」(細かく見れば肺の組織)を治療します。抗菌薬が効けば細菌が減り、肺の状態がよくなります。肺炎のため呼吸が苦しく歩けない状態であった患者さんですが、治療によって呼吸が楽になれば、また歩けるようになるでしょう。
つまり先述の図だと組織や臓器といった細かい部分を治療することで、活動(歩くなど)がよくなる、というのがほとんどの医学の目指すところです。
一方、片麻痺の治療はどうでしょうか。
片麻痺を薬で治すことは難しいため、一般的にはリハビリが主な治療になります。
先述の通り、麻痺した手足が動きやすくなるよう刺激を入れる訓練を行い、歩く訓練では麻痺によって低下した力を補うなどの目的で足に装具をつけたり杖をついたりします。
「歩く」という活動に対して介入を始めます。
その後リハビリの量・質、患者さんの努力などが功を奏し歩けるようになったとしましょう。
そうすると、歩けるようになることで筋力がつき、肺活量も増えるでしょう。1日何千歩も歩けば胃腸が動き便が出やすくなり、お腹がすき、しっかりと食事も摂れるようになるでしょう。
つまり、活動に介入することで全身の臓器、ひいてはすみずみの組織や細胞まで良くなる、というのがリハビリテーション医学の目指すところなのです。
図にすると、ほとんどの医学とは逆の矢印になっています。
もちろん組織や臓器から治療する医学はとても大切ですし、どちらが秀でているという比較はできません。
ただ、リハビリテーション医学のユニークさやおもしろさに気づいていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。