始まれば、終わる 〜患者と医師をいったりきたり〜

今回は、普段とやや違うテイストで。自分自身の話をしっかり書いてみる。

僕はクローン病という腸の難病を持っている。クローン病患者歴は大学1年生からなのでもう11年。医師歴は7年目なので、クローン病患者としての経歴の方が医師より長いことになる。

周りからは「ぱっと見、元気そうだから難病の患者だとは思えないね」と言われる。
ただ、当の本人は毎日薬を飲み、2週間に1回注射を打ち(ヒュミラ)、2〜3ヶ月に1回病院を受診しているので、患者であることを忘れることはない。
加えてお腹が少し痛む、下痢をするという症状は日常的にあり、もはや本人は大して気にしていない。

安倍首相で有名になった潰瘍性大腸炎と並び、クローン病は「炎症性腸疾患」と呼ばれる、腸の難病のひとつだ。
潰瘍性大腸炎が口から肛門までの長い消化管の中で大腸だけに炎症が起きるのに対して、クローン病は小腸を中心に消化管のどこにでも炎症が起こり、ひどい場合は腸がただれて破れてしまうこともある。
これら炎症性腸疾患の多くの患者さんは大腸(+小腸)内視鏡検査を時々受けている。

今回、僕は3年ぶりに小腸内視鏡検査を受けた。
この検査は事前の準備が大変で、下剤をたくさん飲んで腸の中をきれいにする必要がある。
病院には僕と同じく下剤を飲んでいる検査前の患者さんがたくさんいて、トイレはいつも混み合う。
そしてきれいになったかどうか、(これ以上たくさん下剤を飲まなくていいか)を看護師さんに判定してもらい、その結果に一喜一憂する。
よくトイレで鉢合わせたおじさんに「あの看護師厳しいよな。でもお互いがんばろうな」と言われた時は嬉しかったなぁ。
ちなみに下剤はこの10年でいくらか改良されている気がするが、やっぱりまずい。。

そして、お腹の準備ができたら腕に点滴を取られ、検査室へ向かう。
今回は肛門から内視鏡を入れ、数メートル先の小腸までシャクトリムシのように内視鏡を進める「ダブルバルーン内視鏡」というもので、腸同士がくっついている部分がある(癒着 ゆちゃく、と言う)僕にとってはとても痛い検査なので、意識がぼんやりする薬(鎮静剤)を使ってもらう。
ストレッチャーから検査台に移り、左を下にして横向きで寝て、膝を曲げる。
「はい、じゃあおやすみー」と主治医が鎮静剤を打った瞬間から記憶はほぼ無い。微かに覚えているのは腹を内側から押される痛みと、「痛いー」と遠くから誰かが言っている声だけ。
いつの間にか検査は終わりいつの間にか病室に戻っていた。検査着から部屋着に着替えてもいた(誰かが着替えさせてくれた?)。
検査後も翌朝まではもうろうとしており、主治医の先生が病室に来て何か話した気がなんとなくするのだが、何を言われたかは思い出せない。
夜、ナースコールで看護師さんを呼び、ふらつく足でなんとかトイレまで歩き「合格」と言われたことはおぼろげながら覚えている。
検査後家族にLINEをしているのを後で発見したが、書いてあることが支離滅裂で、そもそもLINEをした記憶も無い。。
鎮静剤は苦痛を和らげてくれるすばらしいものではあるが、同時に記憶や判断も鈍らせてしまう恐ろしいものでもある。
ちなみにここまで書いた検査の流れは、すでにこの11年の患者人生で8回目の経験である。が、何回経験しても恐ろしい。

ただ、全ての難病患者さんがこんな大変なことをいつも経験している訳ではない。
ひと口に難病と言ってもその症状の程度は本当に人それぞれ。
良い時もあれば悪い時もある。検査ばかり受けている人もいれば、ほとんど受けていない人もいる。要職に就く人もいれば、残念ながら職に就けない人もいる。
だから潰瘍性大腸炎の患者さんに対する、「安倍さんだって総理大臣になれるんだから、あなたもがんばりなさい!」という励ましは当事者としては「余計なお世話」なのだ。

さて、上に書いた内視鏡検査は自分の患者経験の中で最も嫌なものの一つだ。できることなら検査したくない。(同病の方、そうですよね?)

そんな時、ある方からこの言葉をもらった。それが、「始まれば、終わる」だ。

難病には根本的な治療方法が無い。そのため難病自体には(今のところ)終わりはないのだが、上に書いた検査をはじめ、多くのこと(検査など)は、細かく見れば、「始まれば終わる」のだ。それを知っているだけで、ずいぶん気持ちは楽になると思う。

明日から僕は医師として病院に戻る。
この数日間の患者としての経験は医師としての僕にどう影響するのだろう。
入院患者としての気持ちを忘れ去らないようにしよう。

そして、「始まれば終わる」ことがあることを1人でも多くの患者さんに伝えて、一つ一つ乗り越えていきたい。
そんな考え方があるだけで、少し楽になるのではないかなと期待している。
難病や障害をもつ人が少しでも生きやすい明日がきますように。

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