前回の記事で、3種類の療法士(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)について説明しました。
リハビリ科には上記の療法士がいるのですが、私たち「リハビリ科医」はどこで何をしているのでしょうか?
・リハビリ科医の珍しさ
そもそも、医師には内科や外科などさまざまな専門がありますが、リハビリ科を専門とする医師はとても少ないです。
医師全体の人数が32万7000人余り(平成30年)1)であるのに対して、リハビリ科専門医の数は2507人(2020年4月時点)と、医師全体の1%未満しかいないのです2)。
療法士が3種類合わせて30万人近くいることと比較すると、リハビリ科の中でもいかにリハビリ科医が少ないことがわかるかと思います。
・リハビリ科医=整形外科医?
医師同士で話していて「専門はリハビリ科です」と言うと、「あ、じゃあ先生は整形外科出身なんですね」と言われることが時々あります。
前回の記事にもあったように「リハビリ=怪我の後」と言うイメージが強いことが、医師の間でも強いことがわかりますね。
確かに、整形外科が診(み)るさまざまな怪我や手術の後の患者さんがリハビリを受ける機会は多く、リハビリ科に入院している患者さんの約半数は整形外科を経てきた患者さんです。
しかし、リハビリは実はとても広い範囲の怪我や病気の患者さんが受けているのです。
・脳梗塞やくも膜下出血などの「脳卒中」
・心筋梗塞や狭心症などの心臓の病気
・肺気腫(タバコ肺)などの肺の病気
・がん
・パーキンソン病、関節リウマチ、お腹の手術の後、腎臓が悪く人工透析を受けている方、認知症の方・・・
本当に多種多様なきっかけでリハビリは始まります。
それらすべてにリハビリ科医は対応します。
整形外科関係のものが比較的多いことは確かですが、それだけではないことがお分かりいただけるかと思います。
・結局、リハビリ科医は何をしているのか
実際に患者さんに触れて身体を動かしたり頭を使うよう促していくのは療法士です。
しかし、療法士は必ず「医師の指示のもとに」リハビリを行わなければなりません。
リハビリ科医は、患者さんがリハビリをしても良い身体の状態か、リハビリで身体を動かした場合に危険なことはどんなことかを考え、
「リハビリをやった方がやらないより良いだろう」と判断した場合に、リハビリを「処方」します。
内科医が患者さんに抗生剤や抗がん剤を処方するように、リハビリ科医は療法士を処方し、リハビリを行わせるのです。
薬はその種類や量を考えて処方するように、リハビリでもどの種類の療法士を処方し、どのような内容のリハビリを行うかを決めるのがリハビリ科医の役割です。
そのためにまず患者さんと話をして詳しく診察し、リハビリをしてどうなりたいかという目標を決めます。
リハビリの目標・目的については、次の記事で詳しく述べたいと思います。
ここからはリハビリ科医の日常について、月単位で入院している患者さんをみている立場としてお伝えしたいと思います。
また、リハビリ科医はリハビリを処方するだけで終わるのではなく、リハビリを日々チェックしています。
想像していただきたいのですが、あるリハビリ科医に担当患者が10人いるとします。
10人それぞれのリハビリをチェックし続ける、その仕事を例えるなら、同時に上映されている10チャンネルのテレビ放送を目まぐるしくチャンネルを変えながらチェックしていくようなイメージです。
患者さん10人は寝たきりから初めて座ることができた人、杖をついて初めて外を歩けた人、言葉が思うように話せない人など、さまざまです。
もちろんテレビを観ることとは異なり、実際にリハビリをしている場所(病室やリハビリ室など)に足を運び、患者さんや療法士とコミュニケーションしながらチェックします。
ちなみに私はリハビリ室と病棟の往復を1日で何回もするので、仕事だけで1日1万歩近く歩いています。
加えて、リハビリの時間以外には療法士や病棟の看護師さんと話し合い(カンファレンス)を行い、患者さんの現状を共有し今後の方向性を相談しています。
さらに、患者さん・ご家族と話しあいを行い、そこでは医療者側から見た現状をお伝えし、患者さんの思いを聞き、今後の目標や方針を話し合います。
毎日いろんな人とたくさん話をする仕事だなあと思います。
・リハビリ科医のやりがい
病気が怪我で弱った患者さんがリハビリを日々行い、元気になり自信を持って退院していく姿を見られることが私たちの喜びです。

1) 平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚生労働省)
2) 日本リハビリテーション医学会HP